東京高等裁判所 昭和62年(行コ)27号 判決 1989年8月30日
東京都世田谷区用賀三丁目二七番一〇号
日商岩井用賀マンション四〇五号
控訴人
高木忠三
右訴訟代理人弁護士
栗田盛而
同区玉川二丁目一番七号
被控訴人
玉川税務署長
原安徳
右訴訟代理人弁護士
小川英長
右指定代理人 検事
合田かつ子
同訟務官
川島和雅
同国税訟務官
山口新平
星野弘
同大蔵事務官
岡村一重
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五七年二月八日付けでした控訴人の昭和五三年度所得税の更正(以下「本件更正」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(以下「本件決定」という。)を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のように付加・訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを利用する。
三 被控訴人の主張の補足
本件更正及び本件決定(以下合わせて「本件処分」という。)の内容は、甲第七号証記載のとおりであつて、控訴人の不動産所得及び給与所得に係る所得税については控訴人の申告のとおりに計算し、何ら更正をしておらず、被控訴人が本件処分の対象としたものは本件不動産の譲渡に関する分離長期譲渡所得だけであり、その計算の基礎となつた主要な数額を摘記すれば次のとおりである。
すなわち、課税長期譲渡所得金額(租税特別措置法第三一条第一項参照)を、控訴人は一二二二万五八〇〇円として申告したのであるが、被控訴人は、本件処分において、これを四六三六万四四六〇円(国税通則法第一一八条第一項により、課税標準の計算として一〇〇〇円未満切捨ての処理がされる。以下その他の計算についても同様の処理がされている場合がある。なお、税額については、同法により一〇〇円未満切捨ての処理がされている。)として、申告よりも三四一三万九〇〇〇円多く認めたものであり、この増額分のうち、隠ぺい仮装事由部分が二六六三万八六六〇円、これには当たらないが正当でない部分が七五〇万円(控訴人が譲渡費用ないし取得費に当たるとして所得から控除した名義書換料の分)と認めたものである。その結果、前者による増差税額が一〇九九万六九〇〇円(この一〇〇〇円未満切捨後の税額が、三〇パーセントの重加算税の基礎となる。)となり、後者による増差税額が一五〇万円(これが五パーセントの過少申告加算税の基礎となる。)となり、本件処分、すなわち、所得税の本税として一二四九万六九〇〇円の更正、過少申告加算税七万五〇〇〇円及び重加算税三二九万八八〇〇円の賦課決定がされたものである。
そして、本件処分においては、本件不動産の譲渡代金(さだの分も含む。)を九〇八六万円としていたのであるが、実際の譲渡代金が裏金九〇〇万円を加えた九九八六万円であることは、原審以来主張しているとおりである。この譲渡所得についは、元来青色申告の適用がないので、本訴において本件処分時における被控訴人の理由付けと別の主張が許されるべきことも、原審以来主張しているとおりである。
本件処分が正当であることは明らかというべきであつて、以下の点も含めて控訴人の主張は全部理由がない。なお、次の四2の名義書換料七五〇万円が取得費になるとの主張についても争う。
四 控訴人の主張の補足
控訴人の主張は基本的に原判決事実摘示のとおりであるが、次の2の七五〇万円についての予備的主張を追加する(もつとも、原判決は、この点についても既に判断している。)ほか、以下の点を強調し補足する。
1 まず、本件不動産の譲渡代金であるが、被控訴人が裏金と主張する九〇〇万円は本件不動産の譲渡代金ではない(全く別の貸金である)ので、本件不動産の譲渡代金は合計で九〇八六万円であるが、控訴人とさだは、みのり学園との間の売買契約として、昭和五三年中の契約としては、さだと控訴人がその共有に係わる第二物件を代金四七八八万二〇〇〇円で、控訴人がその所有に係わる第一物件の二分の一を代金二一四八万九〇〇〇円で売却したにすぎず、第一物件の残り二分の一については昭和五四年一月に代金二一四八万九〇〇〇円で売却したものである。被控訴人は、これが不合理であるとして、全部昭和五三年中に売買された上引渡しも完了していると主張し、その上で勝手に第一物件と第二物件の譲渡代金をその土地面積で按分計算して、これが売買代金であると主張している。しかし、複数の物件があるときに、いずれこれを全部売却するにしても、どれを何時幾らで売買するかは、売主である控訴人及びさだと買主であるみのり学園とが自由に決定し契約できるものであり、被控訴人が勝手に決めるべきものではない。しかも、控訴人らは、本件不動産の取得価格に基づき譲渡代金を決定したのであつて、何ら不自然でない。かえつて、被控訴人らが主張する代金は、第一土地と第二土地の単位面積当りの時価(以下単に「時価」という。)が同一であることを前提とするところ、一方の土地は通りに面しており、他方はその裏にあること等明らかに立地条件が異なることからして、その前提自体が不合理なものである。本件処分には、何らの合理性が認められない。
2 控訴人が第二物件の三分の二を取得するに際して他の共同相続人らに合計七五〇万円を支払つたこと、これを右の不動産譲渡所得の譲渡費用と見るべきことは、原審以来「名義書換料」として主張しているところであるが、あるいはこれは遺産分割の調整費というべきであつて、本件不動産の取得費として見るべきものかもしれないので、予備的にその旨も主張する。その控除方法はどうであれ、本件不動産の右譲渡に係る所得を控訴人が得るためには、この七五〇万円の出費が必要であつたから、所得税を賦課するに際して収入金額からこれを控除すべきことは当然である。
3 その他、被控訴人は、裏金であると主張する九〇〇万円(特に、重加算税などに関して、このような本件処分において問題とされなかつた収入により、本件決定の正当性を根拠付けることが許されないことは、原審以来強調したとおりである。)のほかにも、所得から控除すべき費用等の額の点など、本件処分においては問題にされていなかつたことまで本訴において持ち出しているが、その根拠・計算額は全然一貫していないのである。これに照らしても、本件処分は、税を課することにのみ急で調査不十分のままされたものといわざるを得ない。
五 証拠の関係
当審における証拠の関係は、当審記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所もまた、本件処分にはこれを取り消すべき事由がないものと判断するものである。その理由は、次の二ないし八に説示するとおりであつて、基本的には原判決理由説示と同旨であるから、その意味においてこれを引用するが、なお、具体的には、次の二以下において個別に引用する。
二 まず、本件不動産の譲渡価額であるが、これが少なくとも合計九〇八六万円であることは、控訴人も争わないところであつて、争点は、被控訴人はこれにいわゆる裏金として九〇〇万円が上乗せられていたと主張し、控訴人はこの九〇〇万円は本件不動産の譲渡とは関係がなく、控訴人が藤澤由徳個人に貸し付けたものであると主張するのである。この点については、原審の判断と同様に、当裁判所もまた、この九〇〇万円は本件不動産譲渡の代金に含まれるべき裏金にほかならないと認めるものである。ただし、原判決理由第二の一/(一)冒頭所掲の証拠及び弁論の全趣旨により、容易にこれを認めることができ、乙第五号証の別添資料一の借用証書の記載や原審における控訴本人のこの点に関する供述が措信できないことなどは、原判決理由第二の一/中のこの点に関する説示(判決書五一丁表七行目から六六丁表三行目まで。五五丁表七行目「一万円」を「一〇万円」に、五八丁裏七行目「代金二一四八万円」を「二一四八万九〇〇〇円」に改める。)のとおりであり(この記載を全部引用する。)、当審における証拠によつてこの認定は動かないからである。本件不動産を譲渡したころ、控訴人が藤澤に九〇〇万円を貸し付けるような間柄ではなかつたことなどは、右引用に係る原判決理由説示のとおりであり、また、そもそもそのような金員を藤澤個人に交付した事実を認めさせるに足りる証拠もない(単にそのような借用証書があるだけでは、本件にあつては不十分である。)。当審における証拠調べの結果によつても、この判断は動かない。
三 次いで、右の譲渡代金全額が、昭和五三年分の各種所得の金額の計算上収入金額すなわち同年において「収入すべき金額」(所得税法第三六条第一項)と認められるかどうかを見るに、この点も原判決理由第二の一/中のこの点に関する説示(判決書六六丁裏一〇行目から六七丁裏四行目まで。六七丁表七、八行目「のであるから」から同所一〇行目「ものである」までを削る。)のとおりであつて(この説示を引用する。)、第一物件の二分の一だけは昭和五四年一月に売買しかつ引き渡したという控除人の主張は、不自然極まりないし、右引用に係る原判決理由第二の一/(一)冒頭所掲の証拠上到底採用できない。すなわち、右証拠及び弁論の全趣旨に徹するとき、みのり学園との間の本件不動産の売買契約は、昭和五三年一一月二五日に(最大限遅らせてみても、甲第二号証を作成した同年一二月六日までに)全物件について成立していたと認められ、その上で同年一二月中に全部引き渡され、そうであるがゆえに、みのり学園から受託した業者により同月中に第一及び第二建物が取り壊されたものであることが明らかに認められる。控訴人の論理は、第一建物を全部引き渡しても、第一土地の二分の一の引渡しを留保することは十分可能であり、現に所有権(二分の一の共有持分)の移転登記手続は留保していたというのであろうが、土地の共有持分の「占有」の引渡しないしその留保という概念はあり得ないし、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、事実として、控訴人は昭和五三年中に第一土地の占有の全部を引き渡したものと優に認めることができるのであつて、単に形式的に右共有持分に関する移転登記手続を課税回避目的で翌年一月まで留保したにすぎないものというほかない。すなわち、右の引渡しをもつて、控訴人及びさだが本件不動産の譲渡代金の金額についてみのり学園に対して支払請求しうることは既に昭和五三年一二月中に確定していたといえるのであつて(当時、前示裏金九〇〇万円を除き、みのり学園がいつでもこの支払をする用意をしていたことは、右原判決理由説示のとおりである。)、専ら控訴人側において租税回避の目的で自らこれを同年中には受け取らないような形式を採用して受け取らなかつたというにすぎないのである。したがって、所得税法の適用上にこれを同年中に収入すべき金額と見るべきことは明らかであり(なお、控訴人の主張する契約の自由に関しては、次の四の末尾に説示するとおりである。)、これを控除人が主張するように認定解釈するのを相当とする事情は全く認めることができない(控訴人は、私的自治、契約の自由の範囲内での正当な節税行為であるというのであろうが、到底正当とは考えられない。)。当審における証拠調べの結果によつても、この判断は動かない。
四 次に、第一物件と第二物件の譲渡代金のうち、控訴人の分について検討する。
この点も、右原判決理由第二の一/中のこの点に関する説示(判決書六六丁表四行目から同丁裏九行目まで)のとおりである(この記載を引用する。)が、これに次の説示を加える。
すなわち、第一土地と第二土地とが立地条件を異にし、個別に切り離して見る限りその時価は同一ではないとすることは、証拠上ほぼ明らかであるといえる。しかしながら、本件不動産の売買契約においては、右に原判決を引用して認定したとおり、また同所掲の証拠及び弁論の全趣旨上明らかなとおり、売主である(かつ、もう一人の売主である母さだの代理人でもある)控訴人も、買主であるみのり学園も、売買代金を定めるに際して、本件不動産中の建物の価値については全然関心がなく(売買の暁には買主においてこれを取り壊すことが最初から想定されていたし、右認定の引渡しの直後現に取り壊された。)、また、相隣接する第一土地と第二土地との時価が同じか異なるかなどということにも関心がなく、専らこれを合わせた面積が合計で九〇・八坪あることに着目して、坪当たり八〇万円にするか、九〇万円にするか、一〇〇万円にするか、更に若干上乗せするかなどと常に全部を一括して交渉していたものであり、その結果、これが一〇〇万円と定められた上で、更に九〇〇万円の裏金が上乗せされたのであつて、売買代金を定めるに際して、一方の土地の時価が他方よりも高いとか低いとかを全く論ずることなく、かえつて均一と見て交渉していたとしか認めることができないのである。そして、この程度の広さ(一〇〇坪未満)の相隣接する土地を一括して売買するとき、その全体が均一の時価であると見ることは一般的に何ら不合理でないし、ましてや、本件においては、元来同一の所有者から同じ日(すなわち、いずれも昭和三五年五月三一日)に、第一土地は控訴人が、第二土地はその父福太郎が買い受けたものであり、その後の遺産分割により、第二土地は控訴人が三分の二、母さだが三分の一の割合で共有することになつたというものであつて(原判決中六八丁表五行目から同丁裏八行目までのこの点に関する説示を引用する。)、相隣接するこの二つの土地の同一ともいうべき取得経緯と所有者間の密接な人的関係、第二土地が三〇坪にも満たない狭小な土地であることなどからして、控訴人側において最初から二つの土地を一体として有効な利用・処分をすることが予定されていたものと推認することができるから、本売買においても、このような特殊事情のない他の一般の場合とは異なり、第二土地についても現に三分の二の持分を有していた控訴人にとつて(全部を一括して買い受けるみのり学園にとつては当然のことであるが)、双方の時価は同一であるものとして取引されたと見る方がかえつて自然といえるのである。
以上要するに、本件不動産の譲渡代金は右認定のようにして定められたのであるから、第一物件と第二物件との譲渡収入金額を第一土地と第二土地との面積比により按分すべきであるという被控訴人の主張は、現実にどのような売買契約がされたのかという事実認定からしても正当であるし、本件の全事情に照らして所得税法上の解釈としても合理的であると認めることができる。当審における証拠調べの結果によつても、この認定判断は動かない(要するに、本件売買契約においては、専ら土地に着目して、その全体の面積につき、坪当たり幾らとするかにより売買代金を定めたと認めるのであるから、第一土地ないし物件と第二土地ないし物件との時価が異なることの資料の適否について検討するまでもない。)。
右につき、控訴人は契約の自由を強調するのであるが、右に引用した原判決理由説示のとおり、甲第一ないし第三号証及び乙第一号証の売買契約書及び覚書は真実を表示したものとは認めることができない(後記のとおり、要するに、専ら課税回避の目的で作成されたものにすぎないと認められる。)のであるから、契約の自由について更に論ずる必要を見ない。
五 以上により、本件不動産の譲渡に係る控訴人の収入金額については、被控訴人の主張するとおり八九七六万七〇五二円と認めることができる。そこで、右収入金額から控除されるべき取得費及び譲渡費用について検討するに、まず、控訴人の主張に係る名義書換料七五〇万円が、譲渡費用ないし取得費用に当たるかどうかを見るに、これを否定すべきことは、原判決理由第二の一3(四)の説示(判決書七一丁表三行目から七三丁表六行目まで。七二丁表七行目「同法五九条」の下に「及び六〇条」を加える。)のとおりであるから、これを引用する。
そして、右七五〇万円を除くと、控訴人が取得費として主張する額は、論理的に最大限四五〇万二七一三円となる。その内訳は、第一物件については、購入代金及び経費として二九〇万六七一三円であり(第一土地が一八六万四六九六円、第一建物が一〇四万二〇一七円。もつとも、控訴人は、前示の所得年度分割の主張に対応してこの二分の一の一四五万三三五六円を主張している。)、第二物件については、一五九万六〇〇〇円である(論理を一貫させると、当裁判所が認定した前示譲渡価格二〇一八万五八九五円の三分の二(控訴人の持分割合)の一〇〇分の五である六七万二八六三円(一円未満切捨て)というべきであるが、ここでは、論理的ではないが、本件に係る判断の単純化のため、便宜、控訴人の主張のとおり、この譲渡価格を四七八八万二〇〇〇円として同様の計算により算出した一五九万六〇〇〇円のままにしておく。)。
また、控訴人が譲渡費用として主張する額は、論理的に、最大限一〇八万八六四〇円となる。その内容は、第一建物の立退料が九〇万七五〇〇円であり(前同様の理由により、控訴人は、この半分の四五万三七五〇円しか主張していない。)、控訴人の言う登記関係費用が一八万一一四〇円である。
六 かくして、右に認定した譲渡収入八九七六万七〇五二円から、右五の控訴人の主張(その前提たる論理を含む。)を最大限に採用したときに認められる取得費及び譲渡費の合計五五九万一三五三円を控除すると、八四一七万五六九九円となり、これから当事者間に争いがない特別控除額三〇〇〇万円(措置法三五条一項)を控除すると五四一七万五六九九円となる。すなわち、右の七五〇万円に関する控訴人の主張は採用しないが、その余の点について控訴人の主張を(その論理をも含めて)最大限に斟酌しても、控訴人の昭和五三年の分離課税長期譲渡所得は少くとも五四一七万五六九九円あつたことになる。本件処分においては、これを七八一万一二三九円も下回る四六三六万四四六〇円と認定したのであるから、この認定に関して控訴人は何ら不利益を受けていないことになる。
七 次に、不動産所得及び給与所得に係る控訴人の課税総所得金額の点であるが、成立に争いのない甲第六号証の一、二及び第七号証によれば、この点は、控訴人の申告においても本件処分においても七八万一〇〇〇円とされていることが明らかであつて、この点は何ら更正の対象とされていない(このことは、控訴人も何ら争つていない。)のである。そして、これをこのまま是認したとしても、後記のとおり本件の結論を何ら左右しないものであるから、この点は右の控訴人の申告どおり七八万一〇〇〇円であるとし、不動産所得に係る必要経費が幾らであるかなどの争点については更に論じないこととする(したがつて、原判決中これを論じた七三丁裏一〇行目から七六丁表三行目までは、引用しない。)。
八 そこで、本件処分のとおり、控訴人の昭和五三年度の課税長期譲渡所得金額が四六三六万四〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)としたときのその税額を措置法第三一条第一項第二号、同施行令第二〇条第一項等(いずれも昭和五四年以降の改正前のもの。要するに、右の税額算定に適用されるべき法令。これによる計算については、格別の争点になつていないので結論だけを示す。)の適用により、前掲甲第七号証によつて認められる本件処分において被控訴人が計算した金額、すなわち一四九四万一九〇〇円となる。これに不動産所得及び給与所得に係る課税総所得七八万一〇〇〇円に対する所得税額八万一六〇〇円(当時の所得税法参照)を加えた算出税額の合計額一五〇二万三五〇〇円から、住宅所得控除二万五二〇〇円を残し引いた一四九九万八三〇〇円が、控訴人の納付すべき税額である(したがって、一二四九万六九〇〇円の増額更正)。これは、本件更正における「納付すべき税額」に完全に一致する。
かくして、本件更正については控訴人主張に係る取消事由があるとは認められないところ、本件決定についても、前示名義書換料七五〇万円につき、その部分に対応する税額を一五〇万円とした上、過少申告加算税(五パーセントの割合による七万五〇〇〇円)を課したことが正当である(国税通則法(当時)第六五条第二項の正当な理由は、認められない。)ことはもちろん、右一五〇万円を控除して算出した増差税額一〇九九万六九〇〇円(重加算税の計算の基礎としては、一〇〇〇円未満切捨て)につき、三〇パーセントの割合による重加算税三二九万八八〇〇円を課したことも正当である。控訴人が二分の一ずつの二回の持分売買を偽装し、九〇〇万円の裏金工作をしたことが、重加算税に関する同法第六八条第一項の隠ぺい又は仮装に該当することは、いうまでもない(この点については、更に、原判決七六丁裏四行目から七七丁表三行目までの説示を引用する。)。
右につき、若干問題となるのは、控訴人も指摘する裏金のことであり、本件処分においては問われていなかつた九〇〇万円の裏金をも収入金額に加えた上で、重い行政罰たる重加算税を正当と判断することの当否である。しかしながら、これが青色申告の更正に際しての理由付記及びその拘束力と関係のないことは、この点に関する原判決理由説示(判決書六七丁裏五行目から六八丁表二行目まで)のとおりであるから、これを引用する(そもそも、不動産譲渡所得に関しては、青色申告の制度が適用されないのであるから、控訴人のこの点に関する主張は意味がないといわざるを得ない。)。加えて、本件処分に際して被控訴人に右九〇〇万円が把握されていなかつたのは、既に原判決理由説示を引用して認定したところから明らかなとおり、正に租税回避のため「裏金」として控訴人がこの収入を隠ぺいしようとしたことが(一時的ではあるが)効を奏したからにほかならず、このようなおよそ斟酌・同情するに値しない事情によつて元来課せられるはずであつたより高額な重加算税から免がれうる道理はなく、したがつて、右九〇〇万円をも計算の基礎にすることは当然許されてしかるべきである。ひいては、本件訴訟においてこれを斟酌して本件処分における重加算税賦課決定が正当であると判断することは何ら差し支えないものというべきであり、加算税が一種の行政罰であるからといつて、これを不当とすべき合理性は見い出すことができない。
九 以上の次第であつて、被控訴人の認定した収入金額の認定の点においても、またこれを前提とした上での税額計算の点においても、本件処分は、本来されるべきであつた更正・加算税の賦課と対比して何ら控訴人に不利益なものでなかつたことが明らかである。したがつて、本件処分の取消しを求める控訴人の本訴請求は、その余の点について論ずるまでもなく失当であり、棄却を免れない。
よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第三八四条、第九五条及び第八九条に従い、主文のように判決する。
(裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 安國種彦 裁判官伊藤剛は、転任したので署名押印することができない。裁判長裁判官 賀集唱)